労災認定は誰が決定するのか?認定されなかった場合の対処法も解説

労災保険は、雇用されて働く人々を対象とした公的保険制度です。業務によってケガや病気を負い
労災認定を受けた労働者は、この保険から補償を受け取ることができます。

ここで気になるのが、「労災認定の判断は誰がするのか」という点。労働者にとって重要なこの判断は、誰によって行われるのでしょうか。

そこで今回は、労災を認定する機関と制度の基本、また認定を受けられなかった場合の対処法について解説します。

労災認定は誰が決めるのか?

事業主に雇用されて働く人(労働者)が業務に起因したケガや病気を負うことを、「労災」と呼びます。
労災のケガや病気は、公的保険制度である労災保険の補償対象です。そのため、労災に遭った労働者は、そのケガや病気の状態に合った内容の給付金を、労災保険から受け取ることができます。

ただし、ここで必要になるのが「労災認定」。
これは、発生したケガや病気が労災によるものであることを、客観的に認定する手続きです。
もし、ケガや病気が労災によるものだと認められなかった場合、労災は不認定となり、労災保険による給付金の支給は行われません。

労災認定を決めるのは労基署の署長

労働基準監督署は、労働に関するあらゆる調査や手続きを行う機関です。この機関が、労災に関する手続きも担っています。

労災認定の手続きを行うのは、この労働基準監督署の署長です。

通常、労災認定を受けるためには、まず被災労働者が事業所を管轄する労働基準監督署へ必要書類を提出する必要があります。
提出を受けた労働基準監督署は、提出書類の確認の他に、必要に応じて本人との面談や職場のヒアリングも行い、その案件が労災かどうか詳しく調査を行います。そして、その調査結果をもとに、署長が労災認定の可否を決め、結果を被災労働者へ通知するというのが、労災認定の一連の流れになります。

労災保険とは

前述の通り、労災とは事業主に雇用されて働く労働者が業務に起因したケガや病気を負うことを指します。これは、大きく次の2種類に分類されます。

  • 業務災害・・・労働者が業務中に業務が原因で負ったケガや病気、死亡のこと
  • 通勤災害・・・労働者が通勤によって負ったケガや病気、死亡のこと

業務災害と通勤災害とでは、労災保険から支給される給付金の名称が異なります。
また、労災保険の療養(補償)給付の支給においては、通勤災害の場合のみ200円の負担金が発生します。さらに、休業(補償)給付の支給においては、業務災害の場合のみ、待機期間である休業開始から3日間について、会社が休業補償義務を負います。
業務災害には休業中の解雇制限がありますが、通勤災害にはそれがありません。

労災認定される要件

労災認定される要件は、その労災が業務災害なのか通勤災害なのかによって異なります。
それぞれの場合の認定要件を確認していきましょう。

【業務災害の要件】
「業務起因性」と「業務遂行性」の両方が認められること

業務起因性・・・業務と傷病に、一定の因果関係が認められること(私的行為や恣意的行為を原因とした傷病は、業務との因果関係が認められず、業務起因性を満たさない)
業務遂行性・・・事業主の支配下で起こった事故であること(休憩中の外出や休日の傷病は、事業主の支配下で起こったものとは言えず、業務遂行性を満たさない)

【通勤災害の要件】
「通勤」中の事故による傷病や死亡であること

※ 通勤の定義
労働者が就業に際して、合理的な経路・方法によって、「①住居と就業の場所との間の往復」または「②厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動」、「③第一号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動」を行うこと。ただし、業務の性質を有するものを除く。

これらは、労災認定を受けるための基本要件です。業務起因性と業務遂行性のどちらも満たさない事故は業務災害と認められず、労災認定はされません。また、私的な寄り道をしたり知人の家から出勤したりと、通勤の要件を満たさない状況での事故も、通勤災害とは認められません。

さらに、労災補償に関しては、これらに加え、申請する給付金の種類ごとの要件も定められています。
例えば、休業(補償)給付を受け取るには、「労災による傷病の療養中で働ける状態になく、賃金を受けていない」という要件を満たす必要があります。

労災保険の給付の種類

労災保険には、傷病などの状態に応じて、次の8種類の給付が用意されています。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 傷病(補償)年金
  • 障害(補償)給付
  • 介護(補償)給付
  • 遺族(補償)給付
  • 葬祭料(葬祭給付)
  • ニ次健康診断等給付

業務災害の場合には〇〇補償給付や葬祭料が、通勤災害の場合には〇〇給付や葬祭給付が給付されます。

特に利用されることが多いのが、医療費などの療養にかかる費用を補償する「療養(補償)給付」と休業を余儀なくされた場合に給付される「休業(補償)給付」
療養(補償)給付では療養にかかった費用の実費分(サービスの現物支給になることもあります)の補償を、休業(補償)給付では給付基礎日額の80%の補償を受け取ることができます。

労災が認定されるまで、どのくらいの期間がかかる?

労災が認定されるまでの一般的な流れは、次のようになります。

  1. 労災補償の請求書を作成・添付書類の用意
  2. 必要に応じて事業主や医療機関に証明をもらう
  3. 事業所を管轄する労働基準監督署に書類を提出する(労災指定病院で治療を受け、療養補償給付を請求する場合には、書類の提出先は受診した労災指定病院)
  4. 労働基準監督署が調査を開始
  5. 調査をもとに労災認定の可否を決定
  6. 被災労働者へ支給決定通知または不支給決定通知を送付
  7. 給付金の振込

このように、労災認定には複数のステップがあり、手続きを終えるには一定の時間がかかります。書類を提出してから労災認定・不認定が決定されるまでの目安の期間は1ヶ月〜3ヶ月程度。
ただし、事故の内容や書類の不備の有無によって手続きにかかる時間は変わるため、一概には言えません。調査に時間がかかる事故については、それ以上の時間がかかることもあります。

労災認定されなかったら、どうすればいいか?

ここまでご紹介したように、労災は申請手続きを行なったからといって必ず認定されるわけではありません。
では、労災と認定されなかった場合には、その労働者はどのような対応を取れば良いのでしょうか。

労災については、労災保険審査請求制度というものがあります。これは、労災認定・不認定の決定に不服がある場合に、労働者側が審査請求を行える制度です。
この審査請求は、次の3段階で進みます。

①審査請求
労働基準監督署長の決定に不服がある場合に、労働者災害補償保険審査官に対して行う。期限は決定について知った日の翌日から3ヶ月以内。

②再審査請求
①の審査官の決定に不服がある場合に、労働保険審査会に対して行う。期限は決定書の謄本が送付された翌日から2ヶ月以内。

③現処分の取消訴訟
②の審査会の決定に不服がある場合に、地方裁判所に対して行う。期限は決定について知った日から6ヶ月以内。

これらの手続きにより、労災の不認定の決定を覆すことができる可能性があります。

損害賠償請求も検討

労災事故の原因として、会社側の法的責任が認められる場合には、損害賠償請求を行なうことも可能です。
この法的責任としては、「安全配慮義務違反」や「使用者責任」、「工作物責任」などが挙げられます。

損害賠償請求による補償では、労災保険では補償されない慰謝料が補償対象となる点がポイント。労災認定がされなくても、この請求が認められれば、被災労働者は手厚い補償を受けることができます。

また、補償内容が重複しない限り、損害賠償請求による補償と労災保険による補償は併用することも可能です。

(労災が認められなかった場合の対応については、こちらで詳しく解説しています。「労災が認められなかった場合、どうすればいいか?」

まとめ

労災認定の決定は、労働基準監督署長によって行われます。
この認定を得るには、事故の起こった状況が労災および各給付金の要件を満たしている必要があります。これを満たさないと判断された場合には、労災は不認定となり、労働者は補償を受けることができません。

ただし、この決定に不服がある場合には、審査請求や再審査請求を行うことで、決定を覆すことができる可能性があります。

審査請求を行う場合や会社への損害賠償請求を検討する場合には、労災問題を手掛ける弁護士にご相談ください。法律の知識に優れた弁護士からアドバイスやサポートを受ければ、請求がうまくいく確立は高くなります。
手続きを弁護士に任せれば、傷病を負った方も、安心して治療に専念することができるでしょう。