労災で慰謝料を請求できるのか?3種類の慰謝料と相場、請求の法的根拠

職場や通勤途中で労災にあった場合、労働者は労災保険から療養給付や休業給付などの補償を受けられます。また、労災保険の給付に加え、会社からの慰謝料を受け取れる場合もあります。

では、労災にあった場合、どのような慰謝料をどのような場合に請求できるでしょうか。
今回の記事では、労災と慰謝料について詳しくご紹介します。

労災保険で支給される補償とは

労災による傷病は、労災保険による補償対象となります。
まずは、労災保険により支給される補償にはどのようなものがあるのか見ていきましょう。

労災保険とは

そもそも労災保険とは、どのような保険なのでしょうか。

労災保険
業務を起因とする傷病や通勤中の事故による傷病(これらを労災という)に対して補償を行う公的保険制度のこと。正式には労働者災害補償保険という。

労災保険は、労災でケガを負ったり働けなくなったりした労働者の治療費や生活費を支える保険制度です。労働基準監督署長による労災認定を受けられれば、労働者は労災保険による補償(給付金)を受け取ることができます。

また、労働者の労災保険への加入は事業主に義務付けられており、毎月の保険料も事業主が全額負担しています。

労災保険から支給される補償は8種

労災保険から支給される補償(給付金)の種類は、大きく以下の8種に分けられます。

①療養(補償)給付
②休業(補償)給付
③傷病(補償)年金給付
④障害(補償)給付
⑤遺族(補償)給付
⑥葬祭料・葬祭給付
⑦介護(補償)給付
⑧二次健康診断等給付金

労災による傷病の治療費補償なら療養(補償)給付、労災による傷病で休業を余儀なくされた場合には休業(補償)給付など、労災による傷病の状態によって受け取れる補償の種類は変わります。
また、これらの給付にはそれぞれ支給要件があり、要件を満たさなければ給付金を受け取ることはできません。

労災保険の補償に慰謝料は含まれない

上記の通り、労災保険は、治療費や休業、後遺障害など、傷病の状態によって補償を行いますが、1点注意しておかなくてはならない点があります。
それは、労災保険で補償するのは、労災による傷病に対する補償だけであるという点です。労災によって被った精神的なダメージ、つまり慰謝料については、労災保険による補償は行われません。

しかし、労災による精神的苦痛は大きく、傷病の状態に対する労災保険の補償だけでは、補償が不十分だと考える人もいるでしょう。
そこで行うのが、会社に対する損害賠償請求です。損害賠償請求を行い、その内容が法的に認められれば、労災にあった労働者は足りない分の補償や慰謝料を会社から支払ってもらえる可能性があります。

労災で請求できる3種類の慰謝料とその相場について

労災にあった労働者が請求できる慰謝料は3種類に分かれます。ここからは、それぞれの慰謝料の概要とその相場額についてご説明します。

死亡慰謝料とその相場

死亡慰謝料とは、労働者が労災によって死亡した場合に請求できる慰謝料のこと。本来労働者自身が持つ慰謝料請求権も、その家族が引き継げます。
慰謝料の額は、死亡した労働者が家庭においてどのような立場であったのかによって変わります。立場と相場額については、下表を参考にしてください。

死亡した労働者の立場 慰謝料相場額
主たる家計の維持者 約2,800万円
母親、配偶者 約2,500万円
その他 約2,000〜2,500万円

ただし、これらはあくまで目安の額です。労災の状況や会社側の落ち度など、それぞれのケースによって慰謝料額は異なります。

入通院慰謝料とその相場

入通院慰謝料とは、傷病の治療費のために入院や通院をした精神的苦痛に対して請求できる慰謝料のこと。
その相場額は、入院期間と通院期間によって決まります。目安となる例を挙げておきましょう。

・1ヶ月入院し3ヶ月通院した場合の相場→約119万円
・3ヶ月入院し6ヶ月通院した場合の相場→約213万円
・1年間通院した場合の相場→約166万円

ただし、軽度の傷病の場合は慰謝料は相場の3分の2程度に、重症の場合は重症基準適用により相場よりも慰謝料額が上がります。
また、入通院慰謝料の対象期間は、労災事故にあってから症状固定まで。症状固定とは、それ以上治療しても改善の見込みがない状態を指します。

後遺症慰謝料とその相場

後遺症慰謝料とは、通院期間が終わっても後遺症や障害が残った場合に、その後遺症や障害に対して請求できる慰謝料のこと。
残った後遺症や障害の等級に応じて、慰謝料相場は以下のように異なります。

後遺障害等級 慰謝料相場
1級 2,800万円
2級 2,400万円
3級 2,000万円
4級 1,700万円
5級 1,400万円
6級 1,200万円
7級 1,000万円
8級 830万円
9級 670万円
10級 530万円
11級 400万円
12級 280万円
13級 180万円
14級 110万円

これらもあくまで相場であり、各労災のケースによって請求できる慰謝料額は変わります。
また、後遺障害の認定までに入院や通院について、前述の入通院慰謝料を併せて請求することも可能です。

慰謝料以外に請求できるもの

慰謝料請求を行う場合は、慰謝料だけではなく、他の損害に対する補償を請求することも可能です。慰謝料以外に請求できる主な項目を挙げてみましょう。

・傷病の治療費
・入院に関する雑費(入院中に必要な日用品等)
・入院、通院のための交通費
・入院、通院の付添に必要な費用
・傷病による休業損害
・葬儀費用
・逸失利益(後遺障害や死亡により、将来得られるはずだった利益を失う損害)

労災保険の休業給付では給料の8割(特別支給金を含む)が補償されますが、会社への損害請求の場合は給料の全額を請求可能です。
ただし、どのような損害に対する請求を行えるのかはケースバイケースです。

会社に慰謝料等を請求するには?

前述の通り、会社に慰謝料等を請求するには、損害賠償請求を起こさなければなりません。損害賠償請求を起こし、それが認められるためには、法的根拠が必要です。
労災における損害賠償請求でよく主張される法的根拠の例としては、以下のようなものがあります。

安全配慮義務違反
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。(労働契約法第5条)」
「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保する(労働安全衛生法第3条)」
上記法律に記されているような、「安全配慮義務」を会社が怠ったことにより労災が発生したと主張するケース。
使用者責任
「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(民法709条)」
「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。(民法715条)」
従業員が不法行為により他人の利益を侵害した場合には、会社もその従業員同様、被害者に対して賠償責任を負うという「使用者責任」を主張するケース。
工作物責任
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。(民法717条)」
その土地に設置された設備の事故による怪我や死亡は、その設備の占有者である会社に責任があるという「工作物責任」を主張するケース。

会社への損害賠償請求には、上記主張のように、労災の状況に応じた会社側の法的責任を証明する必要があります。これには法律に関する専門的知識が必要になるため、労災に関する損害賠償請求を得意とする弁護士に相談した方が良いでしょう。

まとめ

労災にあった労働者の治療費や生活費の補償、遺された家族への補償等は、労災保険の給付によって行われます。しかし、その額は決して十分とは言えません。
労災後の生活の安定のためにも、請求すべき慰謝料や損害への補償については、損害賠償請求の実行を検討しましょう。

とはいえ、損害賠償請求の手続きには専門知識が必要であり、労働者やその家族だけで手続きを進めることは困難です。損害賠償請求を検討するなら、弁護士への相談が必須でしょう。
また、損害賠償請求に限らず、労災関連のトラブルについても、弁護士が対応可能です。まずは一度相談してみるようにしてください。