労働者には、万が一の労災に備え、労災保険への加入が義務付けられています。そして、もし労災が起こり、それにより労働者が休業せざるを得なくなった場合には、労災保険からの休業補償が給付されます。
しかし、労災による休業時に受け取れるのは、休業補償だけではありません。追加で受け取れる別の給付金が存在します。それが、「休業特別支給金」です。
そこで今回は、「休業特別支給金」について詳しくご紹介しましょう。
休業特別支給金とは?
「休業特別支給金」とは、労災保険の各給付金に上乗せして支払われる給付金「特別支給金」の一種です。「特別支給金」には以下の9種があります。
- 休業特別支給金
- 障害特別支給金
- 障害特別年金
- 障害特別一時金
- 遺族特別支給金
- 遺族特別年金
- 傷病特別支給金
- 遺族特別一時金
- 傷病特別年金労働者
これらの特別支給金は、災害補償保険法の29条に規定されているもので、保険給付とは別に、社会復帰促進のための労働福祉事業として給付されています。そしてその中でも、労災保険の休業補償に上乗せして支払われるのが、「休業特別支給金」です。「休業特別支給金」の支給額は、以下のようになります。
休業特別支給金の支給額
休業1日につき給付基礎日額の20%相当額
また、そもそも労災保険による休業補償には、以下の2種があります。
- 休業補償給付
- 業務中におけるケガや病気による休業の場合に支給される給付金
- 休業給付
- 通勤中におけるケガや病気による休業の場合に支給される給付金
このように、いつ労災にあったかによって給付金の呼び方は変わります。そして、休業補償給付および休業給付の給付額は、以下のようになります。
休業補償給付および休業給付の給付額
休業1日につき給付基礎日額の60%相当額
つまり、労災による休業時には、休業(補償)給付60%+休業特別支給金20%=基礎給付日額の80% を受け取ることができるのです。
「休業特別支給金」は、休業(補償)給付と同じく、休業して4日目から支給されます。また、「休業特別支給金」の申請手続きは、休業(補償)給付と同時に行います。
休業特別支給金の支給要件とは?
次に、休業特別支給金の支給要件について見ていきましょう。
休業特別支給金の支給要件と休業(補償)給付の支給要件は同じで、以下の3つを満たしていれば各給付金を受け取ることができます。
休業特別支給金および休業(補償)給付を受け取るための条件
- 仕事に従事できない状態であること
- 業務中や通勤中の労災により被ったケガや病気の療養による休業であること
- 会社から賃金を受け取っていないこと
これらの要件を満たせば、3日間の待機期間を経た休業4日目から、休業特別支給金および休業(補償)給付を受け取ることができます。
また、休業特別支給金および休業(補償)給付の支給は、条件を満たして休業している限り続きます。
しかし、もし休業してから1年6ヶ月が過ぎた時に傷病等級に該当した場合には、休業(補償)給付が傷病(補償)年金に切り替わり、それと同時に休業特別支給金も傷病特別支給金に切り替わります。
休業特別支給金のみでも申請できる?
ご説明したように、休業特別支給金は労災保険給付とは別に、福祉事業として給付されています。では、労災保険の休業(補償)給付は申請せずに、休業特別支給金のみを申請するということは可能なのでしょうか。
結論から言えば、休業特別支給金のみの申請は可能です。
ただし、福祉事業として給付される休業特別支給金のみを申請し、労災保険(休業給付や休業補償給付)を使わないのは、業務中または通勤中の交通事故によりケガを被ったケースに限られるでしょう。
交通事故によるケガは、たとえ労災であっても、相手側車両の自賠責保険による補償が可能です。もちろん条件を満たしていれば労災保険による補償も可能ですが、労災保険と自賠責保険それぞれの支給割合は以下のようになります。
労災保険による補償割合 | 自賠責保険による補償割合 |
休業1日につき給付基礎日額60% | 休業1日につき給付基礎日額100% |
60%+20%(休業特別支給金)=80% | 100%+20%(休業特別支給金)=120% |
労災保険による休業(補償)給付は、給付基礎日額の60%です。それに休業特別支給金20%を足した80%が、被災労働者が受け取れる給付金になります。
一方、自賠責保険による休業補償では、休業損害分の100%を受け取ることができます。さらに、休業特別支給金も別で受け取れるため、被災労働者は実質120%の給付金を手にすることができるわけです。
業務中や通勤中の交通事故による休業において、労災保険と自賠責保険から二重で休業補償が行われることはありません。そのため、支給割合を参考に、どちらの保険を使用するか検討しましょう。
ただし、以下のような場合は労災保険から休業補償を請求した方がいいと考えられます。
- 被害者側の過失割合が大きい場合
- 自賠責保険では、被害者側の過失割合によって、補償額の減額が行われます。そのため、実際の補償割合が80%〜0%になってしまう可能性もあります。自身の過失割合によっては、労災保険で60%の補償を受け取った方がいい場合もあるでしょう。
- 加害者側が自賠責保険に加入していなかった場合
- 自賠責保険への加入は義務ですが、実は未加入の運転手は少なくはありません。加害者が自賠責保険に加入していなければ、もちろん自賠責保険による補償は受けられないため、労災保険への申請が必要です。
- 運転手と車体所有者が異なる場合
- 運転手と自賠責の名義人である車体保有者が異なっていた場合、保険の適用が認められないことがあります。その場合は労災保険への申請をした方がいいでしょう。
交通事故による休業の場合、損益相殺される?
次に、交通事故による休業の損益相殺についてご説明しましょう。
- 損益相殺とは
- 損害賠償が生じた同一の原因により、債権者が損害と同時に利益を受けた場合、利益分を損害賠償額から差し引くこと
具体例を挙げてみましょう。
「労働者Aが労災によるケガで休業し、労災保険の休業給付金を受け取ったとします。その後、会社側の責任を追求し、Aは会社へ損害賠償請求を行い、損害賠償金を受け取ることになりました。しかし、会社からAに実際に支払われた損害賠償額は、損害賠償額から既に受け取った(または受給が決定している)労災保険による給付金額が差し引かれた額になりました。」
これは、労災保険による給付金と損害賠償金の損益相殺が行われたためです。
労災保険による給付金と損害賠償金どちらもを満額受け取れば、労働者Aは補償の二重取りをすることとなり、同一の原因により生じた補償によって利益を得ることになってしまいます。しかし、それは法律上認められていません。
このような場合には、必ず損益相殺が行われることになっています。
しかし、ご紹介してきた休業特別支給金については、扱いが異なります。休業特別支給金は損益相殺の対象にはなりません。そのため、労災保険による給付金と損害賠償金の損益相殺を受けるのは、労災保険の休業(補償)給付(休業1日につき給付基礎日額60%)部分のみです。休業特別支給金の20%については、相殺されずに受け取ることができます。
まとめ
休業特別支給金についてご紹介しました。
労災によって休業した人の中には、休業特別支給金の請求を失念してしまう人もいます。特に交通事故を原因とする労災で、自賠責保険による補償を受けた人は要注意です。20%の休業特別支給金を受け取れる可能性があるということを覚えておきましょう。
もし労災に関する手続きに迷ったり、相手側や会社側との話し合いがうまくいかなかったりしした場合、弁護士の手を借りることも視野に入れてください。法律の専門家として、労災被害に遭った方のサポートをさせていただきます。