労災保険制度には、複数の給付金が用意されています。そのうち、労災による休業に対して支給されるのが、休業補償給付です。
これは、休業時に平均賃金の80%を補償するもの。ただし補償は待機期間後に開始されます。
では、この待機期間とはどのような期間を指すのでしょうか。
今回は、労災の待機期間について詳しく解説します。
労災の待期期間とは
雇用され働く労働者が業務に起因する事故に遭い、怪我や病気を負った時には、労災保険から給付金が支払われます。
待機期間とは、この給付金のひとつである休業補償給付の支給に際して設定されているものです。
休業補償給付とは
休業補償給付は、労災による傷病で休業している労働者に支払われる給付金です。この支給を受けるには、次の3つの要件を満たさなければなりません。
1. 労災による傷病で療養中である 2. その傷病のせいで働くことができない 3. 賃金を受けていない |
上記要件に当てはまる日は休業日とされ、1日につき給付基礎日額(平均賃金)の80%(休業補償給付60%+特別支給金20%)が支払われます。
この補償では、はじめの休業3日間は待機期間となります。この期間中、被災労働者は労災補償を受けることができません。
休業補償給付の支給が始まるのは、休業4日目から。その後上記要件を満たす日ごとに請求権が発生します。
なぜ待期期間があるのか
待機期間の理由付けとなるのが、労災保険法です。
休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第四日目から支給するものとし、その額は、一日につき給付基礎日額の百分の六十に相当する額とする。
(引用:e-Gov法令検索 労働者災害補償保険法 第14条)
このように、法律では、休業補償給付の支給は休業4日目からとすると定められています。
休業開始の3日間はというと、その補償の責任は事業主に課せられます。これについては、次章で詳しく解説します。
待期期間中の休業補償
前述の通り、休業補償給付には待機期間があります。
とはいえ、この間被災労働者は何の補償も受けられないとわけではありません。待機期間には、労働者を雇用している事業主が休業補償を行うよう定められています。
事業主による休業補償の額は、1日につき平均賃金の60%。つまり、1日の平均賃金が1万円の人であれば、待機期間も1日6千円の補償を受けられます。
この場合の補償は非課税扱いになります。また、支払い元は事業主であるため、労働保険料の対象でもありません。
もう一つ気を付けておきたいのが、待機期間に事業主からの休業補償が行われるのは、業務中に起こった業務災害だけであるという点。通勤中に起こった通勤災害は、補償の対象とはなりません。
待期期間はいつからカウントされるのか?
待機期間のカウントは、休業初日から始まります。休業初日の取り扱いは、労災発生および医療機関受診のタイミングによって異なります。
【労働時間内に労災が起こり、労働時間内に医療機関を受診した場合】→ 労災発生の当日が休業初日として扱われる 【労働時間内に労災が起こり、労働時間後に医療機関を受診した場合】→労災発生の翌日が休業初日として扱われる 【残業中に労災が起こった場合】→労災発生の翌日が休業初日として扱われる |
カウントの起算日が労災発生当日になるのは、労働時間内に事故が発生し、時間内に早退して病院を受診した場合のみです。
受診が労働時間後になったり、事故の発生が残業中であったりした時には、起算日は事故発生の翌日になります。
待期期間のカウントの仕方
待機期間は、休業初日から休業3日目までです。
この3日間のカウントにおいて注意しておきたいのが、次の点です。
会社の休日を含める 年次有給休暇も含める この3日間は連続していても断続していても良い 一部労働の場合も満額の賃金を受けていなければカウントされる |
待機期間には、土日祝日など会社の休日も含まれます。よって、もし土日休みの会社で金曜に事故が発生しその日の所定労働時間中に医療機関を受診した場合であれば、待機期間は金土日の3日間となり、次に休業した日から労災保険の補償が発生します。
また、待機期間は必ず連続していなくてはならないわけではありません。月曜に事故が発生して、火木は出勤、水金は通院した場合であれば、月水金の3日間が待機期間として扱われます。
待期期間に関するQ&A
待機期間に関しては、次のような疑問を持つ方が多いです。
待機期間に有給を充てることは可能?
労働者のミスによる労災でも待機期間の休業補償は必要?
待機期間に一部労働した場合の補償は?
ここからは、これら3つの疑問を順に解決していきます。
待機期間に有給を充てることは可能?
前章でも触れましたが、待機期間には年次有給休暇もカウントされます。よって、待機期間である3日間に有給を充てても問題はありません。
通常、会社に義務付けられている待機期間の休業補償は給付基礎日額の60%ですが、この期間を有給にした場合には、被災労働者は賃金の100%を受け取れます。
ただし、有給は原則「労働者が請求する時に与えなければならない」と決められています。そのため、待機期間に有給を充てるかどうかは、会社ではなくその労働者の意思によって決められる必要があります。
(待期期間中の有給については、こちらで詳しく解説しています。「労災で仕事を休む時に有給は使えるのか?待機期間には?」)
労働者のミスによる労災でも待機期間の休業補償は必要?
待機期間中の会社による休業補償に、労災の原因は関係ありません。機械の不具合による怪我であろうと、労働者のミスによる怪我であろうと、それが労災であり、休業(補償)給付支給の要件を満たしているのであれば、会社は待機期間中の補償を行わなければなりません。
待機期間に一部労働した場合の補償は?
午前中は出勤して午後からは通院するなど、被災労働者が待機期間に一部労働した場合、その日も会社による補償の対象となります。
この場合、「給付基礎日額」から「その日の実働に対する賃金」を差し引いた額の60%が、補償額となります。
また、一部労働した日は待機期間にカウントされます。例えば、月曜に事故が発生してその日の労働時間中に医療機関を受診し、火曜は欠勤、水曜は午前中出勤して午後から通院した場合であれば、この月火水の3日間が待機期間となります。
待期期間の休業補償を受けられない場合は?
待機期間の休業補償は、事業主の義務です。
しかし、中には会社が倒産するなどして、この補償を受けられないケースもあるでしょう。そのような時にはどうすれば良いのでしょうか。
事業主から待機期間3日間の補償を受けられる見込みがない時には、休業補償特別援護金から補償が行われる可能性があります。
この援護金を得るための要件は、「事業場の廃止や事業主の行方不明の後に傷病の発生が確定し、事業主から待機期間の休業補償を受けられないこと」で、被災労働者本人が労働基準監督署に申請書を提出することで手続きを行えます。
まとめ
ご紹介した通り、待機期間である休業最初の3日間は労災保険の補償対象外です。この間の補償義務は事業主に課せられており、被災労働者に対しては事業主から平均賃金の60%が支払われることになっています。
ただし、その対象は業務災害のみであり、通勤災害において待機期間の補償はありません。
また、待機期間のカウントの仕方や休業補償が受けられない場合の対応についても押さえておきましょう。
また、会社が労災申請を認めない、また事業場が廃止されたり事業主が行方不明になったりしていないのに待機期間の休業補償が支払われないなど、労災関連のトラブルは多数発生しています。このようなトラブルに遭った時には、1人で抱え込まず弁護士に相談し、専門家による早期解決を目指しましょう。