労災隠しとは?企業が労災を隠す理由と労災隠しの対処法

「労災隠し」とは、労災事故が発生したにもかかわらず、事業主が意図的にこれを隠すことです。

労働基準法75条第1項では「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、または必要な療養の費用を負担しなければならない」と規定しています。
これを受けて、労災事故が発生したとき、事業主は、労働安全衛生法100条及び同法施行規則第97条に基づいて、現場の状況や被災状況などを「労働者死傷病報告」により、所轄労働基準監督署長に報告することが義務づけられています。
死傷病報告の届出を行わなかったり、虚偽の内容で届出を行う等、上記の規定に反した場合には、50万円以下の罰金(安衛法第120条)に処せられます。

どのような場合が「労災隠し」に該当するのか?

●「会社側がいくらか支払うので、労災申請をしないでほしい」と言われた
上記のとおり、労災隠しは犯罪になりますので、会社の言いなりになって労災申請しないことは犯罪に加担したことになります。また、このような場合に会社から提示される金額は、労災を申請すればもらえる金額よりも少額である可能性が高いです。

●「パートだから労災申請はできない」と言われた
労災は全従業員に対して適用されるので、正社員、契約社員、アルバイト、パート誰にでも適用されます。

●「元請けに迷惑がかかるので労災申請をしないでほしい」と言われた
労災隠しの理由で多くを占めるのが、このように上の立場に対して気を遣ってしまうケースです。他にも、親会社や取引先の目を気にする事例も多くあります。

●労災事故発生時の状況について虚偽の記載を求められた
勤務中の事故なのに休憩中の事故と書くように言われたり、事故発生時周囲に複数の従業員がいたのに被災者本人しかいなかったとの記載を支持されることがあります。
労災が申請されれば労働基準監督署から調査が入り、労災かどうかの判断が下りるわけですが、事実と異なる記載をすると、本来なら認定されるはずのケースも労災と認定されなかったり、会社に対して損害賠償請求できるはずのケースでも請求できなくなったりしてしまいます。

●「うちの会社は労災保険に加入していない」と言われた
従業員が1人以上いれば、会社は労災保険に加入しなければなりませんので、このような言い分は通りません。そもそも、労災保険に加入していないことが問題となり、加入していなくても労災として報告しなければなりません。

企業側はなぜ労災を隠そうとするのか?

労災保険料の金額が上がる

労災の保険料は「メリット制」により決定されます。メリット制とは、労働災害件数の多寡に応じて労災保険率または労災保険料額を増減させる制度で、保険料負担の公平性の確保と労働災害防止努力の一層の促進を目的として採用されています。
メリット制によれば、一定の範囲で労災の発生件数が多ければ労災保険料が高くなるともいえるので、企業側は労災と認定されるのを避けることが考えられます。

企業のイメージが低下する

労災が申請されれば、管轄の労働基準監督署から会社に調査が入り、労働環境が適切でないなどの理由で、行政指導や勧告が行われるケースもあります。こうなってしまえば、その会社の良くない面が公になってしまい、他の従業員や取引先にも、労働災害が生じた事実や、環境の不備などが明らかになってしまいます。そうすれば取引先との継続的な関係も維持できなくなったり、従業員からの不満が出てきたりすることが考えられるので、企業側はなるべく明らかにしないようにしたいと思うケースも多いです。

手続きが煩雑

代表者一人、従業員一人で運営するような小規模会社の場合、従業員が怪我をしたため代表者が労災の手続きをすべて行うとなると、業務の通常運営に支障をきたすことが考えられます。しかし、労働災害の報告は代表者の当然の義務ですし、ましてや数少ない従業員のためにきちんと手続きを踏み、保険料を受給させたいものです。労災隠しが発覚すれば、賠償の手続きはさらに煩雑になり、代表者が負うべき責任はさらに重くなります。

様々な責任を免れたい

労災の事実が認定されると、被災労働者は労災保険を受給できるだけでなく、会社に対して安全配慮義務違反や使用者責任を理由に損害賠償責任を請求できるケースが多くあります。また、業務上過失致死傷などの刑事責任を負うケースもあるでしょう。このような責任が認められると、会社は多額の賠償金を支払うだけでなく、代表者が懲役になる可能性も出てきます。このような事態を避けるために、労災隠しを行うケースもあります。

企業に労災隠しをされないために(もしくは労災隠しをされてしまったら)どうすれば?

労災申請は、会社の協力がなくても従業員だけで行うことが可能ですので、まずは労働基準監督署に労災申請をすることが肝要です。その際、場合によっては労災隠しをされそうな事実を証拠(メール、書面、ボイスレコーダー等)とともに伝えておくと良いでしょう。労働基準監督署は労災認定の審査をすると共に、会社に対し是正措置などの行政処分を行うこともありますので、会社の今後の対応を改善できるかもしれません。
ただ、労働基準監督署によって、その扱う件数や忙しさに応じ、対応がまちまちな場合があり、満足のいく対応をしてもらえないことがあります。

そこで、労働基準監督署に相談するのと並行して、弁護士に相談しておくことをお勧めします。
弁護士に相談しておけば、労災として認定される可能性、支給される金額、会社や使用者に対する損害賠償請求の可否についてある程度目途が立ち、落ち着いて治療に専念できます。また。認定された内容に不服があれば、不服申し立てなどの法的手続きを迅速に行うことも可能です。
弁護士法人法律事務所テオリアでは、多くの労災案件を扱っておりますので、適切なアドバイスを無料で行うことができます。会社による労災隠しでお悩みの方、是非お気軽にご相談ください。