建設業の労災の仕組みについて

労災保険への加入は事業主に義務付けられており、ほぼ全ての労働者が労災保険の対象となっています。それは、一般業でも建設業でも変わりません。
しかし、建設業における労災の仕組みは一般業とは違う部分が多く、やや複雑な内容になっています。また、働き方によっても補償のされ方は変わります。
そこでこの記事では、建設業の労災の仕組みについて、詳しくご紹介しましょう。

建設業の労災保険の仕組み

建設業の労災保険の仕組みは、各社でひとつの労災保険に加入する一般業とは異なります。建設業に従事する人の場合は、「現場労災」と「事務所労災」という2種の労災に入ることになるのが一般的です。
まずは、「現場労災」と「事務所労災」について見ていきましょう。

現場労災

現場労災とは
工事現場での労災に備える保険のこと。工事現場ごとに加入する。加入義務は元請け会社が持ち、元請けの労働者だけではなく、下請けの労働者も含めて、現場で働く労働者全員を加入させる。

現場労災への保険加入義務を負うのは、元請け会社です。そして、その現場で働く労働者であれば、下請け会社の労働者であっても、元請け会社による現場労災に加入することになります。
また現場労災では、事業主や現場で働く一人親方は補償の対象にはなりません。しかし、特別加入制度を利用することによって、現場労災へ任意で加入できる場合があります。

現場労災において労災と認められるのは、以下のようなケースです。

  • 請負工事現場での作業中の事故
  • 請負工事に必要な準備や片付け中の事故

一般的な労災認定では業務遂行性と業務起因性が重視されますが、現場労災の場合は「請負工事現場で起こった事故であること」も条件となります。ただし、工事現場への合理的な手段・経路による通勤については、通勤災害として現場労災の対象となります。

事務所労災

事務所労災とは
工事現場以外の業務における労災に備える保険のこと。各会社の事業主が加入義務を持つ。

作業場で木材を加工したり道具の手入れをしたり、また営業や事務を行ったりという業務は、工事現場で行うものではないため、事故が起こっても現場労災の補償対象にはなりません。
そこで、労働者の現場以外の事故に備えて、各会社の事業主が加入義務を持つのが、事務所労災です。事務所労災は、作業場や工場、資材置き場、営業先、事務所など、工事現場以外の場所で起こった業務に起因する事故を補償します。
現場業務とそれ以外の業務のどちらもを担当する労働者であれば、現場労災と事務所労災のどちらもに加入することになります。

事務所労災には、現場労災のように場所の制限はありません。しかし、事務所労災において労災と認められるには、以下の2点が重要視されます。

業務遂行性
労働者が事業主の支配下にある状態のこと
業務起因性とは
怪我や病気が業務に起因していること

この点は、通常の労災認定と同じで、業務遂行性・業務起因性がなければ、労災認定はなされません。

特別加入制度

各種労災保険の対象者は、労働者です。そのため、事業主や役員だけではなく、業務委託や個人請負として現場で働く一人親方も労災の加入対象にはなりません。
しかし、労災の対象とならない人の万が一への備えのために、労災への特別加入制度というものが存在します。建設業において特別加入制度の対象になるのは、以下のような人です。

  • 一人親方
  • 事業主
  • 法人役員
  • 家族従事者

※一人親方とは:自分一人だけ、もしくは家族だけで建設事業を行う事業主のこと

労災に特別加入するためには、条件を満たした上で申請手続きを行う必要があります。加入が認められれば、その人は特別加入者と位置付けられます。
また、特別加入制度による労災の補償対象となるのは、以下のようなケースです。

  • 労働者の所定労働時間内での、特別加入申請を行った業務を行うための作業中における事故
  • 労働者と共に行う時間外および休日の作業中における事故
  • 特別加入者のみで行う、上記作業の前後作業中の事故

ただし、会議や接待などといった事業主本来の業務や特別加入者のみで行う休日労働などについては、特別加入労災の補償対象にはなりません。
事故による備えは、どんな立場の人にも必要です。事故が起こってからでは、労災加入および補償を受けることはできないのです。労災の特別加入制度の対象となる人は、なるべくこの制度を利用し、万が一に備えておくようにしましょう。

建設業では労災隠しが発生しやすい!?

建設業では、労災隠しが発生しやすいと言われています。

労災隠しとは
労災が起こったことやその事実を労働基準監督署に報告せず、隠蔽すること。労災隠しは労働安全衛生法違反にあたり、罰金刑の処される。

建設業で労災隠しが発生しやすい理由は、建設業ならではの労災の仕組みにあります。
前述の通り、現場労災においては、元請け会社が現場で働く全ての労働者に対して、労災加入義務を持ちます。そのため、もし下請けの労働者が現場で怪我をしてしまったとしても、その責任は元請け会社にあることになります。
そして、労災を起こした会社には、状況によって以下のような処分が課せられる可能性があります。

  1. 労災保険料の増額
  2. 刑事罰
  3. 行政処分
  4. 指名停止処分(入札参加企業)

このような処分を嫌って、元請け会社が下請け会社の労働者に対し、労災を隠させたがることがあるようです。仕事の関係上、断れない立場にいる下請けの労働者は、元請け会社に言われた通り労災を隠し、自費で怪我や病気の治療を受けてしまうというわけですね。
建設業には危険な仕事が多く、他の業界と比べてどうしても労働者の怪我が多くなってしまうため、このような労災隠しが発生しやすいと言われています。しかし、労災隠しは犯罪です。明るみに出れば、罰金だけでなく社会的なデメリットも大きいでしょう。
労災は、労働者の事故に備えるためのもの。適切に利用しなければなりません。

建設現場で怪我をしたのに、労災を使うなと言われたら

では、建設現場での作業中に怪我をしてしまったにも関わらず、元請会社から「労災保険を使うな」と言われてしまった場合、どのように対応すればいいのでしょうか。
ご紹介した通り、労災隠しは犯罪です。労災保険の補償を受ける権利は労働者にあり、労災保険の給付を決定するのは労働基準監督署です。事業主に労災保険を使用するかどうかを決める権利はありません。
労災において労災保険の使用を会社が認めない場合には、被災労働者はまず労働基準監督署に相談するようにしましょう。労働基準監督署では、事故が起こった状況や症状、それらに対する会社の対応を報告することになります。証拠となるようなものがあれば、それも持参してください。すると、労働基準監督署が調査を始め、しかるべき処置を行います。
会社が労災を使わせてくれない場合にひとつ注意しておきたいのが、「絶対に健康保険を使って治療を行わない」ことです。労災による傷病は健康保険の対象ではないため、不正受給とみなされてしまう可能性があります。
労災による傷病については、労災病院や労災指定の医療機関などであれば原則無償で治療を受けることができます。ただし、労災指定以外の病院では、ひとまず治療費を立て替えなければなりません。ここで健康保険を使用してしまわないよう、くれぐれも注意しましょう。

まとめ

建設業における労災についてご紹介しました。
建設業は人々の快適な生活に欠かせない職業であり、危険のある作業を日々担っています。それだけに、労災保険でしっかりと備えておくことが大切です。
万が一、労災について会社側に不当な対応をされてしまった場合には、速やかに労働基準監督署に相談しましょう。また、自身での対応に不安がある場合には、一度弁護士にご相談ください。法律の専門家として、適切なアドバイスや手続きを行い、あなたをサポートさせていただきます。