退職後に労災申請はできるのか?退職したら労災の給付は終わるのか?

労災によって通院する場合には療養給付、会社を休業する場合には休業給付など、労災保険による給付は、業務によって怪我や病気を負った労働者の生活を支えています。
しかし、労災保険給付の受給中に会社を退職した場合には、労働者は給付を受け続けることはできるのでしょうか。また、退職後に労災請求を行うことは可能なのでしょうか。
そこで今回は、退職後の労災申請と給付について詳しくご説明します。

労災保険受給中に退職した場合、退職後も給付を受けられるか?

労災保険の給付金と条件

まずは、労災保険による給付金の給付条件を確認しておきましょう。
労災保険による給付金には、以下の8種類があります。

  • 療養(補償)給付
  • 休業(補償)給付
  • 傷病(補償)年金給付
  • 障害(補償)給付
  • 遺族(補償)給付
  • 葬祭料・葬祭給付
  • 介護(補償)給付
  • 二次健康診断等給付金

この中で、給付金受給中の退職に大きく関わるのは、「療養(補償)給付」「休業(補償)給付」「傷病(補償)年金給付」「障害(補償)給付」「介護(補償)給付」の5種でしょう。
これら5種の給付金の支給条件は、それぞれ以下のようになります。

療養(補償)給付の支給条件
業務、または通勤が原因である負傷や疾病により療養を必要とする場合(傷病が治癒するまでの間)
休業(補償)給付の支給条件
以下の3条件を満たす場合

  • 業務上の事由、または通勤による負傷や疾病による療養であること
  • 労働できる状態にないこと
  • 賃金を受けていないこと
傷病(補償)年金給付の支給条件
業務、または通勤による負傷や疾病の療養開始後から1年6か月経過日、またはそれ以後、以下の要件に該当する場合

  • 負傷や疾病が治っていない
  • 負傷や疾病による障害の程度が傷病等級表の傷病等級に該当する
障害(補償)給付の支給条件
業務、または通勤による負傷や疾病が治り、身体に一定の障害が残った場合
介護(補償)給付の支給条件
以下の4条件を満たす場合

  • 障害が一定の状態に該当する
  • 現在介護を受けている
  • 病院や診療所に入院していない
  • 老人保健施設や障害者支援施設(生活介護を受けている場合)、 特別養護老人ホーム、原子爆弾被爆者特別養護ホームに入所していない

労災給付受給中に退職しても、給付金は受け取れる

前述の通り、労災保険からは、労災によって怪我や病気を被った労働者への療養補償や休業補償などが給付されます。労働者の労災保険への加入は事業主に課せられた義務であり、保険料も事業主が全額を負担します。
では、労災により労災保険の給付金を受け取っている労働者が退職してしまった場合、退職後の給付金はどのように扱われるのでしょうか。
結論から述べると、労災保険の給付金受給中に退職しても、給付条件を満たしていれば、被災労働者は給付金を受け取り続けることができます。法律では、以下のように規定されています。

「補償を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない」(労働基準法第83条)

「保険給付を受ける権利は、労働者の退職によつて変更されることはない。」(労災保険法第12条の5)

このように、退職前に被った労災による補償を、退職によって取り止めることは認められていません。よって、労災保険の受給中に退職したとしても、被災労働者は給付金を受け取り続けることができるのです。
ただし、退職後にも給付金を受け取るためには、前章で挙げた支給条件を満たしている必要があります。また、給付金ごとに給付期間は定められています。

退職後に労災申請をすることは可能か?

ご紹介したように、退職前から受給していた労災給付は、支給条件さえ満たせば、退職後にも受け取り続けることが可能です。
では、退職してから労災申請を行い、労災給付を受け取り始めることは可能なのでしょうか。
前章で挙げた「労働基準法第83条」と「労災保険法第12条の5」では、「退職によって補償および保険給付を受ける権利は変更されない」とされています。
そのため、退職したからといって労災を申請する権利がなくなることはありません。傷病の原因が業務に起因するものであるのならば、退職後であっても労災を申請することは可能です。
ただし、労災には各給付によって以下のような時効期間が定められており、時効期間を経過した場合には、労災申請は行えません。

給付の種類 時効期間
療養(補償)給付 療養費用を支払った日または費用の支出が確定した日ごとに、その翌日から2年
休業(補償)給付 療養による休業で賃金を受けない日ごとに、その翌日から2年
傷病(補償)年金給付 なし
障害(補償)給付 傷病が治った日の翌日から5年
遺族(補償)給付 労働者が死亡した日の翌日から5年
葬祭料・葬祭給付 労働者が死亡した日の翌日から2年
介護(補償)給付 介護補償の対象になる月の翌月1日から2年
二次健康診断等給付金 一次健康診断の受診から3ヶ月以内

退職後に労災を申請する方法

次に、退職後の労災申請方法についてご説明しましょう。
在職中であっても退職後であっても、労災申請の方法は基本的には変わりません。給付に応じた請求書(下表参照)に必要時効を記入し、管轄の労働基準監督署に提出します。

給付の種類 請求書名
療養(補償)給付 療養(補償)給付たる療養の給付請求書様式

療養(補償)給付たる療養の費用請求書

休業(補償)給付 休業(補償)給付支給請求書
傷病(補償)年金 傷病の状態等に関する届(報告書)
遺族(補償)給付 遺族(補償)年金支給請求書

遺族(補償)一時金支給請求書

葬祭料・葬祭給付 葬祭料(葬祭給付)請求書
介護(補償)給付 介護補償給付・介護給付支給請求書

※同じ請求書名でも、ケースによって様式が異なるので注意。

請求書は労働基準監督署に備え付けてあるものを利用するか、厚生労働省のホームページからもダウンロードできます。
また、請求書には事業主による証明が必要な欄があるため、通常であれば事業主の協力を得て請求書を完成させます。しかし、退職後となると、事業主の協力を得ることが難しい場合もあるでしょう。
事業主に労災の証明をしてもらえない場合は、請求書の事業主証明欄は空白にしておいて構いません。請求書を労働基準監督署に提出する際に、事業主からの協力を受けられなかった旨を報告すれば、そのまま書類を受理してもらえます。事業主の証明を受けられないからといって、労災請求を諦める必要はないのです。
請求書提出後は、労働基準監督署が労災の調査に入ります。そして、労災が認められれば、給付金の給付が開始されます。ただし、労災認定・不認定の判断はすぐには出されません。案件によっては数ヶ月かかることもあります。

まとめ

労災を被った被災労働者が、傷病や会社との関係悪化を理由に退職するケースは珍しくありません。しかし、退職したからといって、労災を申請する権利や労災保険の給付金を受給する権利が消滅するわけではありません。法にもある通り、補償を受ける権利は退職によって変更されることはないのです。
会社が労災を認めなかったり手続きに協力的でなかったりしても労災申請は可能ですが、もし一人で労災手続きを行うことに不安があるのならば、迷わず弁護士へ相談しましょう。弁護士によるサポートを受ければ、正確で迅速な手続きが叶います。安心して自身の療養に専念できるよう、必要な時には法律のプロの手を借りることが大切です。